【中小企業白書案内②】「事業再構築」と「アンゾフの成長マトリックス」

brown and green trees on brown field
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事例Ⅲ・再現答案チームの「みっちー」です。

本日の記事は、中小企業白書第2部「新たな時代へ向けた自己変革力」第3節「感染症下の事業再構築」に沿って、事業再構築について学んでいきます。白書で紹介されている事例企業2社を紹介し、成長戦略とシナジー効果についておさらいしていきましょう。

「事業再構築」というと、SNSの診断士界隈でしばしば目にする「事業再構築補助金」を連想されるかもしれません。しかし、白書や本記事で扱う「事業再構築」とは、新しい製品やサービスを作り出したり、提供方法を変えたりすることを指しており、必ずしも事業再構築補助金に申請したり採択されたりした事業だけではない、ということを念頭に置いてお読みください。


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どうぞお楽しみに!

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1.事業再構築とアンゾフの成長マトリックス

そもそも事業再構築とはなんでしょう。中小企業白書2022では、事業再構築の定義について以下のように述べています。

ここでいう事業再構築とは、新たな製品を製造又は新たな商品若しくはサービスを提供すること、製品又は商品若しくはサービスの製造方法又は提供方法を相当程度変更することを指す。

(中小企業白書2022 Ⅱ-58 注釈20)

事業再構築を実施している企業は、事業再構築補助金に申請している企業や採択された企業を指すわけではない点に留意。

(中小企業白書2022 Ⅱ-58 注釈21)

つまり、事業再構築補助金の申請・採択状況とは関係なく、以下のいずれか(あるいは両方)に当てはまる施策であれば、白書の指す事業再構築に該当します。

  • 新規の製品・商品・サービスを提供する
  • 新規の市場・販路に進出する

「新規の製品」「新規の市場」という言葉から、アンゾフの成長マトリックスをすぐに連想できましたか?白書内ではアンゾフの成長マトリックスという言葉自体は用いていませんが、事業再構築は「製品開発」「市場開発」「多角化」を意識していると思われます。

既存製品新規製品
既存市場市場浸透製品開発
新規市場市場開発多角化
アンゾフの成長マトリックス

ぜひ、アンゾフの成長マトリックスは自分で描けるようにしてください。令和2年度事例Ⅱで、アンゾフの成長マトリックスに基づいて回答させる設問が出たのは記憶に新しいところです。

白書では、事業再構築の実施内容を以下の3つに分類しています。それぞれ、アンゾフの成長マトリックスにおける「製品開発」「市場開発」「多角化」に対応していることに注目してください。

  1. 既存の市場・販路 × 新規の製品・商品・サービス (製品開発)
  2. 新規の市場・販路 × 既存の製品・商品・サービス (市場開発)
  3. 新規の市場・販路 × 新規の製品・商品・サービス (多角化)

白書ではそれぞれの具体例を以下のように挙げていますが、ぜひご自身でも考えてみましょう。

  1. ヨガ教室においてオンライン配信サービスを新たに開始 (既存市場×新規サービス)
  2. 卸売業者がECサイトを通じた個人客向けの販売を新たに開始 (新規市場×既存製品)
  3. 航空機部品製造業社が半導体関連部品の製造を開始 (新規市場×新規製品)

2.事業再構築の実施状況

では、どれくらいの企業が事業再構築を実施しているのでしょうか。また、業種ごとの内訳や実施内容はどのようになっているのでしょう。

中小企業白書2022では、東京商工リサーチによるアンケート結果を掲載しています。これによると、新型コロナウイルス感染症流行後(2020年2月以降)に事業再構築を「既に行なっている」または「1年以に行う予定」と答えた企業は22.5%でした(n=5,224)。

中小企業白書2022 Ⅱ-58より抜粋

業種ごとに見ると、新型コロナウイルス感染症の影響を受けやすかった業種(宿泊業・飲食サービス業、小売業、生活関連サービス業・娯楽業)ほど、事業再構築を既に実施または実施予定の割合が高い傾向が見られました。特に宿泊業・飲食サービス業では、「既に行なっている」「1年以内に行う予定」の割合が合計41.3%と突出していました(n=87)。

中小企業白書2022 Ⅱ-59より抜粋

事業再構築の実施内容で分類すると、「既存の市場・販路 × 新規の製品・商品・サービス」の割合が41.8%と最も高くなりました(n=1,140)。大差とは言えないものの、アンゾフの成長マトリックスにおける製品開発を採用する割合がやや高いようです。

中小企業白書2022 Ⅱ-61より抜粋

3.事例企業紹介

中小企業白書2022に掲載されている事例企業の中から、事業再構築に関連するものとして株式会社村井様と株式会社和多屋別荘様をご紹介します。

株式会社村井

参照:中小企業白書2022 Ⅱ-65

brown leather lace up shoes
Photo by Oluwaseun Duncan on Pexels.com

東京都豊島区に本社を置き、靴の「靴型」を企画・製造・販売するメーカーです。BtoBの靴部品事業が中心で、2000年からはBtoCのフットケア事業(インソールやパッドの販売)も行なってきました。新型コロナウイルス感染症の影響で靴メーカー向けの部品売上高が減少したため、一般消費者向けの開発・販売強化で売上や利益をコントロールすることが課題でした。

事業再構築開始時点におけるSWOT分析をしてみると、以下のようになります。

S
(強み)
全国の靴業界700社中400社との取引実績がある。
金型や製造機械を自社で設計製造できる。
大学との共同で製品の評価・開発を進める風土がある。
フットケア事業により一般消費者への販路も持つ。
W
(弱み)
一般消費者向け自社製品が乏しい。
O
(機会)
ゴルファー向けインソールへの潜在的な需要がある。
新製品の開発資金をクラウドファンディングで調達できる可能性がある。
T
(脅威)
感染症により靴部品の売上が減少。
事業再構築開始時点における株式会社村井のSWOT分析

一般消費者向け自社製品を開発・販売するために挑戦したのが、ゴルファー向けインソールの開発でした。飛距離アップと球筋安定を両立させる機能を訴求し、2021年にクラウドファンディングで資金調達を開始。メールやSNSを活かした広報活動が功を奏し、700人以上の支援者から目標の1,300%にも達する購入金額が集まりました。

ゴルファー向けインソールへの潜在的な需要を汲み取り、広告宣伝効果も兼ねてクラウドファンディングを打ち出したことが迅速な資金調達につながったと思われます。もちろん、ゴルファーに訴求できる機能を持ったインソールを開発できる技術力があればこそです。

この事例をアンゾフの成長マトリックスに当てはめようとすると「製品開発」か「多角化」か解釈が割れそうですが、いずれにせよ事業再構築に相当します。クラウドファンディングが話題になったことで一般消費者からの認知度が向上したため、社長は今後フットケア事業を成長させていきたいと考えています。

株式会社和多屋別荘

中小企業白書2022 Ⅱ-66

佐賀県の嬉野温泉で1950年に創業し、2万坪にも及ぶ広大な敷地と110室の客室を有する旅館です。旅館再生コンサルタントとしての経験がある3代目社長の指揮のもと、低コストかつ高品質なリフォーム、ティーツーリズムの導入など付加価値向上を進めてきました。しかし新型コロナウイルス感染症で宿泊客が減少し、「一泊二食」に依存した従来型ビジネスモデルの弱点が浮き彫りとなりました。

事業再構築開始時点におけるSWOT分析をしてみると、以下のようになります。

S
(強み)
「日本三代美肌の湯」である嬉野温泉のブランド。
2万坪の敷地と110室の客室で多くの宿泊客を収容できる。
現社長は旅館再生コンサルタントとしての実務経験を持つ。
大工経験のある社員が低コストかつ高品質なリフォームを実施できる。
嬉野茶や備前吉田焼と組み合わせたティーツーリズムを実施。
W
(弱み)
利益率の低い「一白二食」形式に依存。
O
(機会)
サタライトオフィスへの需要があり、取引先からも設置したいという打診を受けた。
感染症拡大によりワーケーション需要が高まった。
T
(脅威)
感染症により宿泊客が減少し売上半減。
事業再構築開始時点における株式会社和多屋別荘のSWOT分析

宿泊客減少による売上低迷の打開につながったのは、広大な敷地を活かしたサテライトオフィス誘致でした。旅館を愛用していた企業のサテライトオフィス入居をきっかけに、サテライトオフィス事業を拡大させ、さらに感染症流行で関心が高まったワーケーション向けの需要も取り込みました。さらに「Reborn Wataya Project」と題して、旅館に有名パティスリーショップを誘致したり、書店などを開業したりする事業を進めています。

これらのリーシング事業により、入居企業から収益が得られるだけでなく、「Reborn Wataya Project」で誘致した店舗を目当てに訪れる地元客も獲得できました。現社長は、今後もリーシング事業を拡大させてゆき、地元の雇用創出の機会につなげたいと考えています。

この事例をアンゾフの成長マトリックスに当てはめると「多角化」に相当するとともに、シナジー効果も生じていると考えられます。嬉野温泉の広大な敷地という資源を、「宿泊客がくつろげる空間」および「企業がサテライトオフィスや店舗を置くスペース」として同時多重的に活用することで、単なる売上補填に留まらず、サテライトオフィス誘致による利益率向上、「Reborn Wataya Project」による地元客や宿泊客にとっての付加価値向上といった効果が現れています。

4.おわりに

実際の企業の事例に当てはめて考えることで、テキストに書かれた文字がイキイキとした実感を帯びてきます。中小企業診断士の勉強で学んでいることはテキストの中だけのことではなく、近隣の企業や私たちが利用している製品・サービスに直結していることを改めて感じていただければ幸いです。

明日はブランド構築について、「しの」が解説します。お楽しみに!

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