書評:『稲盛和夫の実学 経営と会計』

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こんにちは。大人の学び直し実践家のYumaです。今日は軽い話題となりますが、『稲盛和夫の実学 経営と会計』(日経ビジネス人文庫。Kindle版有り)を紹介します。

『半沢直樹』と稲盛和夫

最近はドラマ『半沢直樹』を興味を持って観ていますが、ドラマの舞台である「帝国航空」は日本航空すなわちJALであり、JALの経営破綻を元ネタに1000倍返しのストーリーが展開されています。来週の最終回が待ち遠しいわけですが、そんなフィクションの世界はさておき、現実のJALの経営破綻から再上場までの復活には様々な機関や人物が関わっており、会長として関わったのが本書の著者である稲盛和夫です。

私はなんのきっかけか本書を読み、ここから会計や経営……と副題にある分野に興味を持ち、ひいては中小企業診断士につながった経緯があります。受験生の皆様には、試験受験後にお読みいただければと思う一方で、文庫本200ページ・600円と小ぶりでもあり、試験にも有用かもしれませんので興味がある方はお読みいただければと思います。

 

 

物事をゼロベースで見直す

私が感じる本書の魅力は物事をゼロベースで見直す姿勢です。

冒頭の減価償却をめぐるエピソードがまず考えさせられます。セラミックの粉末を成形する設備は法定耐用年数では12年であるが、実際には機器の保守を適切に行なってもせいぜい5,6年が精一杯である。しかしこれを6年で償却する運用は実務的に煩雑であり、わざわざする必要がないと専門家は指導する。これに稲盛は異を唱えるのです。

「法定耐用年数」を使うという慣行に流され、償却とはいったいなんであり、それは経営的な判断としてどうあるべきなのか、という本質的な問題が忘れられてしまっているのである。(p.31)

かくのごとく常識とされている事柄にとらわれず考え直す姿勢が本書には横溢しています。

これは、一般に流通する会計原則・会計処理をむやみに否定することを意味しません。たとえば本書によれば、本書の舞台となる京セラではキャッシュフロー計算書など現代的な会計手法を他に先んじて経営管理システムに取り入れました。時期尚早と一般に思われている手法も経営指針に適合すると判断すれば導入する。これもまた常識を絶対視しない姿勢の表れです。

今思うと強く本書が印象に残ったのは、初読時の私の心象状況、すなわち常識を振りかざす態度を嫌って物事をゼロベースで検討しなおすことの必要性を感じていた心持ちにマッチしたのだなと思いました。

魔が差す人間と「一対一対応原則」

常識を疑う稲盛の態度は、経営を行うにあたって人間としての原理原則、正しいことを行うという哲学に基づいています。このような記述には、正直なところ偽善の匂いが感じられるところですが、しかし稲盛の凄みは、お題目を掲げるにとどまらず、それを実現する仕組みを構築して運用するところにあります。

人間というものは正しいことを追求すべき一方で、ときに魔が差してしまう。その事実を直視した上で、モノ・お金と伝票を必ず一対一に対応させる原則やダブルチェックの原則を導入・貫徹させることで心の緩みを牽制しようとします。稲盛の理想論に疑い深い会計士が一番緩んでいるであろう海外営業所に確認するくだりなどもまた興味深いエピソードですが、このあたりも当時業務にシステム監査の整備・運用を(その意義を疑いながらも)行っていた私の認識を変える力がある記述でした。

この意味で私は会計の果たす役割はきわめて大きいと考えている。なぜなら会計において万全を期した管理システムが構築されていれば、人をして不正を起こさせないからである。(p.151-152)

おわりに

本書には、旧弊な会計処理を振りかざす経理部長に対して、経営者としてのあるべき疑問、本質を追求する観点でもって問い詰めていき、ついには自説を認めさせるという、技術者上がりの青年経営者である稲盛の成功譚があります。その勧善懲悪は『半沢直樹』ばりであってスカッとするストーリーテリングを楽しめるというのも魅力の一つです。勉強に飽きたときに読んでもよいかもしれません。本稿は稲盛の言う実践的基本原則の説明である第一部を中心に紹介しましたが、第二部には様々な経営課題に思い悩む経営者の気持ちに触れることができ、診断士試験の、特に事例Ⅳの参考になるところもあるでしょう。


明日はこーしの登場です。

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