以下の文章を読んで、文中に唐突に現れる設問に答えてね。
なお、このお話はフィクションです。実在の人物・事件・団体・地域・筆者の実体験等とはあまり関係ありません。
<登場人物紹介>
米搗治(こめつき おさむ)
在宅で働くプログラマー。先祖代々の土地を有効活用するため、昆虫採集のサブスクリプション・サービスを副業として行っている。
須空部源五郎(すからべ げんごろう)
企業内診断士。米搗とは大学時代からの友人であり、副業の経営相談に乗る。
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ふぞろい16メンバーのブログは2月20日スタート!
どうぞお楽しみに!
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目次
日本の国土の3分の2は森林に覆われている。
木材や観光資源としての価値は、森林のごく一面に過ぎない。雨水を蓄え、空気中の炭素を固定し、野生生物に住処を与え、河川を通して海へ養分を供給する機能は、金銭では置き換えられない恩恵だ。地方都市の人口が減少してゆく中で、この森林資源をいかに保全しながら活用してゆくかが問われているー。
近畿地方某県X市の集落、原懐村(げんかいむら)。総面積4200haのうち48%が人工林、44%が二次林、3%が原生林に覆われており、残り5%を占める平地を中心に約200人の村民が住んでいる。かつて林業が盛んだった時代、木材の切り出し及び搬出の拠点として開拓が進み、トロッコや林道が整備された。大正から昭和にかけては良質なスギの産地として知られ、著名な寺社仏閣の普請にも用いられた歴史がある。
スギ林以外にはコナラやクヌギなどの落葉広葉樹林が広がり、カブトムシやクワガタなどの甲虫が生息している。また、広葉樹の林床を縫うように流れる小川が小さな池を形成し、多様な水草や小魚、ゲンゴロウやミズカマキリなどの水生昆虫のすみかとなっている。かつては、昆虫採集をする子供たちで賑わう光景も見られたという。
しかし戦後は都市部への人口流出が止まらず、高齢化と人口減少により山林の活用が困難な状況が続いている。スギの枝打ちや間伐を行う人手も不足し、放置された林の中は暗く陰鬱とした有様だ。
米搗治(こめつき おさむ)は、在宅で働くプログラマーである。原懐村で生まれ育ち、幼少期は米搗家が代々所有している山で昆虫採集に明け暮れた。大学では昆虫生態学を研究し、修了後はデータ解析のスキルを高めたいと考えプログラマーの道へ。名古屋で数年勤務した後、完全テレワークが可能な企業に転職し、3年前に原懐村の実家へ戻ってきた。そこで、放置され荒れ果てた山林を目の当たりにし、少ない資本でもこれらを有効活用できる方法を模索している。
米搗は、大掛かりな設備投資を行わずに山林資源を活用できるスモールビジネスを考案した。それが、昆虫採集のサブスクリプション・サービスだ。
サブスクリプション・サービス(以下、サブスクリプション)とは、月会費や年会費を支払うことで、契約期間中にサービスを利用できるサービス提供形態のことである。従来の定額制サービスよりも顧客の契約・解約が容易であり、継続的かつ短いサイクルでサービス内容を改善してゆくことが重視される。いまやサブスクリプションは、動画配信、SaaS、食品宅配など、さまざまな分野で見られる形態だ。
米搗の提供する昆虫採集サブスクリプションでは、会員は年会費¥15,000を支払うことで、米搗家の所有する山林での昆虫採集、山菜採り、採集道具の利用、および米搗家での宿泊ができる(民泊として許可を得ている)。さらに会員のみがログインできるウェブサイトがあり、昆虫の繁殖・保全状況についてリアルタイムな情報が得られる。昆虫の生息地が良好な状態で広範囲に渡って残されていること、地形や昆虫の分布状況を熟知する米搗から情報提供を受けられることが訴求点だ。
サブスクリプションの会員は、主に近畿地方に住む大学生だ。個人の所有する土地で、許可を得て大々的に採集活動ができることが彼らを惹きつけ、毎年生物系サークルの合宿に利用されている。学生時代の交友関係を頼りに会員を増やし、会員数20人を超えた。しかし一方で、採集道具などの在庫が増加したり、予約管理の手間が増えたりと、課題も生じている。
本業と両立させながら昆虫採集サブスクリプション事業を成長させてゆくため、米搗は知り合いの中小企業診断士に相談することにした。
米搗、久しぶり。ちゃんと稼げてるか?
須空部源五郎(すからべ げんごろう)は、メーカー技術職として働くかたわらでコンサルティングに取り組む中小企業診断士だ。米搗とは大学時代からの友人であり、共通の趣味として昆虫採集を嗜んでいる。
うーん、まあトータルでは黒字だよ
負けが込んでるギャンブラーみたいなことを言うなって。
昆虫採集サブスクリプション、ちゃんと全体固定費の回収に貢献してる?赤字だと長く続けるのはしんどいだろ?
なんだっけ、貢献利益とかいう数字で評価するんだよな
<財務会計 平成21年度1次試験 問10を改変>
米搗は副業としてシステム開発、昆虫採集サブスクリプション、せどりに取り組んでいる。昨年度の副業の売上および費用構造は以下の通りだった(単位:万円)。
部門別損益計算書に基づいて、下記の設問に答えよ。ただし、費用の構造は一定とする。
米搗の副業収入に対する、昆虫採集サブスクリプション部門の貢献を示す利益額として最も適切なものはどれか(単位:万円)。
ア. 7
イ. △7
ウ. 16
エ. △16
<解答・解説>
「貢献利益」の定義は、①限界利益と同義とする場合、②限界利益から個別固定費を引いたものとする場合の2通りがある。中小企業診断士試験では②で出題される。
つまり、【貢献利益=限界利益-個別固定費】
なお、【限界利益=売上-変動費】
昆虫採集サブスクリプションの費用構造をこの式に代入すると、
貢献利益=33万円-12万円-5万円=16万円
正解:ウ
おお、ちゃんと貢献利益プラスになってるじゃん!
余計なコストを削るだけでも、けっこうな収益になりそうな・・・
その前にさぁ
うん?
久々に山行かね?
いいね
こんな所に学校があったのか
昔の林業集落ってやつの跡だな。
この辺りは大正時代に木材の搬出基地があって、学校も建てられるほど大きな町だったらしい。今じゃ石碑しか残っていないし、学校も市の中心部まで通わないといけないけど
こういう陸の孤島みたいな地域こそ、IT導入が必須だよなぁ
だな。市全体でもIT教育に投資しているし、今じゃ小学生の方が親よりネットを使いこなしてるよ
<経営情報システム 平成24年度1次試験 第20問を改変>
ITの進展に伴い、それらを使いこなす人々の能力の向上が叫ばれている。これに関連する記述として最も適切なものはどれか。
ア. フィルターバブルにより検索者にとって最適化された情報が得られるため、情報の偏りに注意する必要はない。
イ. eラーニングは、ITスキルの習得に用いられるばかりでなく、近年では経営理念の浸透や環境問題への意識向上などにも用いられている。
ウ. VR(Virtual Reality:仮想現実)は、現実の風景に文字や図などのデジタルデータを重ね合わせる技術であり、スマートフォンのカメラで昆虫を撮影すると種名が画面に表示されるなど、教育ツールとして活用できる。
エ. ビッグデータとは、大量の構造化データをリレーショナルデータベースに蓄積したものであり、SNSの投稿、スマートフォンの位置情報、自然現象などの非構造化データは一切含まれない。
<解答・解説>
ア. 誤り。フィルターバブルにより、検索者の過去の検索履歴などに応じた情報が現れやすくなるため、情報の偏りに注意が必要。
イ. 正しい。
ウ. 誤り。選択肢の記述はAR(Augmented Reality:拡張現実)についての説明である。VRはCG合成された景色を、あたかもその場にいるかのようにリアルタイムで映し出す技術。
エ. 誤り。ビッグデータには構造化データだけでなく、SNSの投稿、スマートフォンの位置情報、自然現象などの非構造化データも含まれる。非構造化データはNoSQLデータベースなどで管理される。
正解:イ
ところで廃校といえば魚の養殖だよなあ。やってみないか?
なんで廃校と魚の養殖が繋がるんだよ・・・。まあ、ゲンゴロウなら自然に繁殖してるけどな
お、ゲンゴロウいるんだ
ゲンゴロウ、ゲンゴロウモドキ、シマゲンゴロウ、クロゲンゴロウがいる。校庭の角の方に小川が流れ込んで、浅い池みたいになってるだろ。農地よりも上流だから農薬が流れ込まなくて、水草や水生昆虫が残ってるんだ。
どれどれ・・・・・・・・・・・・ほら、ゲンゴロウ。そこに泳いでる。
素晴らしい
ただ、ここは米搗家の土地ではないから、客に採集を許可するのはもうちょっと奥の森だな
ここから先が、米搗家代々の土地だ。この辺はコナラとクヌギの林で、カブトムシやクワガタが採れる。もう少し上に行くとモミの林になっていて、オオトラカミキリが生息しているぞ
ワクワクが止まらない
この辺にも小川が流れ込んでいて、ところどころ小さな池を作っている。そこでもゲンゴロウが見られるんだ。・・・あ、ハンミョウがいる。
甲虫マニアにはたまらないな
そう、まさに甲虫マニアをターゲットにしている。素敵な甲虫(Fantastic beatle)の森だ!
昆虫採集サブスクリプションの会員は、年会費を払ってこの土地の中で昆虫採集ができる。さらに採集道具や標本箱も提供しているんだ
顧客層としては、どんな感じだ?
ほとんど近畿地方の大学生かな。完全紹介制にして、信用できる人だけを土地に入れるようにしているよ。やっぱり、過剰に採られて生息地が荒れてしまうのが心配だからさ
うん、確かにこのビジネスモデルだと、無秩序に会員を増やすのは危険だね。新規顧客の獲得ペースは緩やかでも、信用できる人達を固定客化するという考えには賛成だ。その大学生達が後輩を誘ったり、卒業後も継続的に利用してくれたりすれば、なおいいね
<企業経営理論 オリジナル設問>
昆虫採集サブスクリプションの会員について居住地や職業を調査したところ、以下のア〜エの特徴が見られた。市場細分化(セグメンテーション)の細分化変数で説明するとき、「デモグラフィック変数」に相当するものはどれか。
ア. 会員の居住地は人口規模100〜150万人の都市である。
イ. 会員はいずれも大学生・大学院生である。
ウ. 村を訪れる会員の延人数は7月が最多であり、次いで8月が多い。
エ. 会員は昆虫への関心が高く、採集・写真撮影に強いこだわりを持っている。
<解答・解説>
ア. 都市の人口規模はジオグラフィック変数である。
イ. 職業や学歴はデモグラフィック変数である。
ウ. 市場細分化変数ではない。
エ. 興味関心やこだわりなどの主観的要素はサイコグラフィック変数である。
正解:イ
いやあ、楽しかった!久々に空気の綺麗な場所で体を動かせたよ。で、今日はなんの話だったっけ
そうだ、本題は経営相談だったわ。
ちょっと在庫について悩んでて。
ふむふむ
うちは民泊の許可も取っていて、サブスクリプション会員に宿泊も提供しているんだよね。素泊まりで食事は客に自分でやってもらってるんだけど、学生は食材を持ち寄って鍋を囲んだりするじゃない
ああ、鍋いいよね
で、鍋用のカセットコンロとガスボンベを貸しているんだけど、このガスボンベ代が案外かかるわけよ。かといって、客室用にガスを引いたりIHを設置したりするのは大掛かりだから、躊躇してしまうわけ
ガスボンベ提供はサブスクのサービスに含まれるの?
なし崩し的に含めちゃった。
そしたら予想以上にガスボンベの消費が多くて・・・。こまめに買い足すと配送コストがかかるし、かといって買い控えると欠品する。鍋を楽しみに来る人も多いから、提供廃止はなるべく避けたい
なるほどね。じゃあ、経済的発注量を設定して、定量発注方式を採用するのはどうかな
<運営管理 令和元年度1次試験 第10問を改変>
ガスボンベの在庫を定量発注方式で管理するため、経済的発注量を設定したい。年間所要量・発注費・保管費は、以下のように判明している。
このとき、経済的発注量として最も適切な値はどれか。
ア. 46本
イ. 48本
ウ. 50本
エ. 52本
<解答・解説>
年間の推定使用量をd、1回あたりの発注費をc、1個あたりの年間保管費をhとする。このとき、経済的発注量Qは以下の式で求められる。
この式にd=40、c=1440、h=50を代入すると、Q=48(本)となる。
正解:イ
なお、経済的発注量Qを求める式は以下の手順で導出できる。
1回の発注量をqとすると、年間発注費と年間保管費は以下の通り。ただし、0<q
年間発注費=c×(d÷q)
年間保管費=h×(q÷2)
よって年間発注費と年間保管費の合計は、qの関数f(q)として以下のように表される。
f(q)が最小になるとき、年間発注費と年間保管費の合計が最小になる。このときのqの値が、経済的発注量Qである。
f(q)をqについて微分すると
q=Qのときf'(Q)=0となるので
これをQについて解いて
やったぜ。これで、公式を忘れても自分で導けるね。
・・・と、いうわけで。ガスボンベの経済的発注量は、1回あたり48本だ。安全在庫は、約1ヶ月分の消費量に相当する3本としよう。つまり、残り3本になった時点を「発注点」として、48本調達するということだ。
へえ、そうやって決めるんだね。ところで、自分の家に保管するだけなのに「保管費」なんて考える必要あるの?
在庫コストを考えるときは考慮する必要があるよ。在庫が保管スペースを圧迫したり、管理の手間が生じたりすること自体を「機会費用」とみなすんだ。
あー、ガスボンベは爆発する場合もあるから、管理の手間はあるよね。
そうだね。今回は保管費を仮に「¥50/本・年」としたけれど、本来は保険料、販管費、資本コストなどを加味して設定するよ。
さて、そろそろ客が来る時間だ
あ、今日お客さん来る予定だったんだ
まあ、客と言ってもほぼ知人だけどね。ゲンゴロウ目当ての大学生が3人来るよ
ごめんください
お、来たみたいだ
あー、いらっしゃい。今回は時間遅めだったね
はい、昼間は周辺の道の駅や遊歩道をふらふらしていました。夕飯は途中で食べてきたので大丈夫です
了解。じゃあいつも通り、離れの鍵を渡しとくから、自分達で布団敷いて泊まってね
はい。今回もよろしくお願いします
明日はいつも通り山に行く予定?
そうですね、例の池でシマゲンゴロウ狙いです。
シマゲンゴロウね。今日の昼ごろ池に行ってみたら、ちゃんといたよ。
そうなんですね!楽しみです。あと、山菜も少しいただきたいのですが
どうぞどうぞ。今はコシアブラとタカノツメが出てるね
ありがとうございます。山菜は道の駅でも売ってたんですけど、やっぱり高いので米搗さんの山でいただいた方がいいな、と
まあ、サブスク会員には山菜採るのも認めてるから
<経済学・経済政策 令和3年度 第3問を改変>
国内総生産(GDP)に含まれるものとして、最も適切な組み合わせを下記の回答群から選べ。
a. 道の駅での山菜販売
b. 年額料金制の昆虫採集サブスクリプション
c. ひとり暮らしの家事労働
d. 家族総出で庭にバナナの皮を敷く
ア. aとb
イ. aとc
ウ. bとd
エ. cとd
<解答・解説>
国内総生産(GDP)は、国内で一定期間内に生産されたモノやサービスの付加価値の合計である。市場価格表示をもとに算出されるため、市場で取引されないものは含まれない。例外として①帰属家賃、②農家の自家消費、③公共サービスはGDPに含まれる。
a. GDPに含まれる。
b. GDPに含まれる。
c. 家事労働はGDPに含まれない。
d. なんの付加価値も生み出していない。
以上から、GDPに含まれるのはaとbである。
正解:ア
お客さんとはだいぶフランクな感じなんだな
まあ、客といっても実質友人だし
顧客とこれだけ信頼関係を築けているのは、お前の強みだな
そうそう、顧客ロイヤリティが高いってやつ?
もともと昆虫が好きな人たちだから、環境保全の視点も持っていて、節度ある採集に協力してくれる。その上で、サブスクリプションの料金にも納得して払ってくれているんだよ
副業としては軌道に乗った感じだな
お陰様でね。今後は会員の登録情報を管理したり、山のどこにどんな生物がいるのか情報を一元化したりしたいなと考えてる
そうだな。データベース化の施策についても、飲みながら話し合おうか
米搗と須空部の作戦会議は深夜まで続くのだった・・・。
(つづく?)
と、いうわけで。限界集落での昆虫採集サブスクリプションは副業としてアリなのか、中小企業診断士と一緒に考える「ファンタスティック・ビートル」シリーズの開幕です。ストーリーと組み合わせることで、設問への親近感が湧いて記憶に定着しやすくなる・・・のかもしれません。
「診断士の旅」と言いつつ、山の中ほっつき歩いてただけじゃないか?いえいえ、須空部は米搗に会うために、わざわざ東京から旅して来ているんです。こういう一生ものの友人は大切ですね。
明日はあっきーの登場です!お楽しみに。