ふぞろい7分析チームで事例Ⅰを担当させていただいた「いけしん」です。
今回は、事例1の解き方について考えてみたいと思います。
事例1は、事例2・事例3とくらべて設問と与件文の対応づけが難しいと言われることが多いです。「与件文にヒントが見つからない」と言う声も、よく聞かれます。
しかし、そんなことはありません。当然のことながら、与件文には解答の根拠とすべき記述が十分に盛り込まれています。しかし、事例1の場合には、その盛り込み方が他の事例とはちょっと違うのです。
事例2や3が、ある設問に対して根拠とすべき記述が与件文の特定の「部分」であるのに対し、事例1の場合には、事例全体のストーリーの中に、その企業の解決すべき「課題」が示されており、その課題を解決するという「全体のテーマ」がつかめれば、すべての設問に対する答えが出るという形になっています。逆にその「全体のテーマ」を捉えずに1問1問与件文にヒントを探しに行っても、適切な助言は導き出せないのです。
では、そのテーマをどうやって見つければいいのか?
ズバリ、与件文の最後に、そのテーマを強烈に暗示する「大ヒント」が書かれていることが多いのです。(もちろん、だからといって今年もそうであるとは限りませんが)
具体的に過去の事例で見てみましょう。
H23年度では、与件文の最後に「ややもすると、成功に安住し『ゆでガエル』になりやすい状況を回避し、チャレンジ精神を維持していくことが、現社長にとって大きな課題である」と記述されており「これがこの会社の課題・社長の悩みですよ」とテーマが完全に明示されています。ですのでこの「チャレンジ精神を維持するためにはどのような人事・組織戦略をとるべきか?」というテーマに基づいて全体の助言を組み立てればいいのです。
そういう目で与件を読んでみると、
というような、一見好調で何の問題もないように思えるA社社長の抱える悩みが、透けて見えてきます。
中小企業診断士としてこの社長に何を助言すべきか?これまでは社長個人の力で行ってきた新分野へのチャレンジを、現社長の引退後も、会社のシステムとして行っていくための仕組みづくりを行わなければなりません。また、現社長に代わってチャレンジをリードしていく「人」を育てなければなりません。そういった課題の解決策として、設問で問われている「営業戦略」「特許戦略」「経営と所有の分離」そして「組織管理上の施策」を組み立てていけば、A社社長に対する一貫した経営戦略・人事戦略の助言内容が明確になってくるのです。
H24年度の与件文の最後には、さらっと読んだ限りでは、テーマは明示されていないように見えます。しかし与件文最後の「社長自らが率先して、日々、意識改革やシステム改善に取り組んでいる」という一見何気ない記述には、よく読むと違和感を感じます。なぜ、わざわざ与件文の最後にこの記述を持ってきたのでしょうか? なぜ、ここであえて述べる必要もないと思われる「社長自らが率先して」という記述を入れたのでしょうか?
それは、この「社長自らが率先して」という記述に、この会社の最大の課題が隠されているからなのです。
中小企業なのですから、このような日々の改善活動を、社長が自ら率先して行うのは当たり前のことです。この社長も、それを当たり前のように行ってきたのだと思います。しかし、それが故に多くの中小企業では、全てが社長の指示のもとに行われ、社長の具体的な指示なしには何も進まないという体制になっていることも事実です。
会社が国内の1拠点のみであり、社長の目が行き届く範囲で活動が行われている間は、それはそれで何の問題もありません。この、「小規模ながら海外で事業を展開する」A社も、まさにそんな会社であったと思われます。しかしこのA社が、国内のほかにS国に工場を持ち、さらにT国に進出する、つまり、社長の目が届かないところでの活動がどんどん増加していくという状況になったときに、それでうまくいくでしょうか?
そこに、この事例の大きなテーマがあります。そしてこれは、中小企業の海外進出時に共通の課題となる大きなテーマであると言えます。
そういう目で、問われている「品質改善になぜ時間がかかったのか?」「係長クラスの現地工場長の役割は?」「国内での成果主義導入の留意点は?」を考えていくと、すべてに筋の通った一貫した助言が導き出されてくると思います。
さて、それでは、昨年H25年度のテーマは何だったのでしょうか?
そうです。与件文の最後の「あの記述」が、全体のテーマの大ヒントとなっているのですね。詳しくは「ふぞろいな合格答案 エピソード7」本誌に掲載されていますので、ぜひご覧ください。
現在T国で、H24事例1そのままの状況にリアルに取り組んでいる、いけしんでした。