SRS:間隔反復システムの導入と運用(独学者のために・その3)

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さて、本日は大人の学び直し実践中の私が愛用している「Anki」という単語帳アプリの使用方法をご紹介します。

導入と初期運用に多少の手間がかかりますが、軌道に乗ればいつでもどこでも学習できるツールになります。
諸々大変な時期ですが参考にしていただければ幸いです。

 


SRS:間隔反復システムとは

SRSとは

本記事で言うSRSとはSpaced Repetition Systemの略であり、「間隔反復法」と訳されている。
学習間隔を徐々に伸長させながら反復的に想起させることで効率的に記憶を維持することを企図した概念/技術である。

昔からある概念であるが、本概念をアプリケーションとして実装したプロダクトも出てきており、本稿はそのうちの一つであるAnkiを紹介する。

なお、管見によれば、現代の人材開発の文脈において、Adaptive Learning、もしくはMicro Learningの一形態と捉え直すことも可能であろう。つまり、個々人の記憶状態維持に最適化された確認頻度において、記憶の維持が必要な学習単位のみを学習することを支援するシステムと言えよう。

別の日本語に置き換えれば「単語帳アプリ」となるだろう。
出題部分と回答部分を持つ学習単位ごとにマルバツを回答し、その回答によって次回の学習日が決定する。記憶が曖昧な学習単位はすぐに復習機会が与えられる一方で、確かな学習単位の復習機会が延伸するロジックに基づくため、効率的かつ効果的な記憶の維持を実現できる。

Ankiとは

AnkiはSRSを実装したアプリケーションの一つである。Anki以外にも数多くのアプリケーションがあり、特に語学学習系の分野では学習すべき単語がプリセットされ、また学習意欲を掻き立てるゲーミフィケーション的要素を盛り込んだアプリが多くあるため、そちらの使用の検討をしてもよいだろう。
本稿では生涯学習をサポートする学習管理システムとしてSRSを捉えており、学習内容は自分が決めることを念頭においている。

生涯学習管理システムとして定義した場合、SRS以外にも実装が期待される機能としては以下があると考える。Ankiはこれらを充足するものであるため紹介しているが、その他のアプリは詳細を知らないため、必要に応じて比較検討を行ってほしい。

  • マルチプラットフォーム。Webアプリ(https://ankiweb.net/about)を中心として、クライアント版(Windows/Mac)、iOS/Android版も提供(iOS版のみ有料)。これにより、後述するように、学習単位の登録と学習とは別のデバイスで行うことや、オフラインでの学習が可能となる。
  • CSVインポート/エクスポート機能。CSV形式のデータをインポートし、また蓄積した学習単位をCSV形式でエクスポート可能。これも後述するように、同期順序の失敗によりデータの喪失の危険性があるため、一定頻度でエクスポートするのが望ましい。また、外部学習リソースが提供するCSV形式のデータを取り込むことで効率的な登録作業が可能となる。
  • 応答速度。公式サイトによると10万単位の学習単位を登録してもスムーズに操作できるとのこと。「生涯」学習を前提とした場合には欠かせない要件となる。


その他、オープンソースであり開発支援コミュニティが存在すること、単語帳共有プラットフォームがあること、無料であること、日本語に対応していること、などが特長として挙げられる。

間隔反復システムの導入

アプリケーションのインストール

アプリケーションのインストールについては、すでに多数の紹介記事があるためそちらに譲る。たとえば以下のサイトが参考になる。

スマートフォンを保有する方がほとんどだと思うため、ぜひPC版とスマフォ版をインストールし、Webアプリ(AnkiWeb)でアカウントを作成することで各デバイスを同期できるようにしてほしい。

デッキの作成


デッキとは「単語帳」のことである。このデッキを分類のカテゴリーとして学習単位を登録していく。初期設定では「Default」という名前のデッキのみが作成されている。
あとで追加や名前の変更、また別のデッキへの移動も可能であるためそのまま使用し続けても問題ないが、必要に応じてデッキを作成する運用が望ましいと思われる。
というのも出題はデッキ単位で行われるため、デッキが一つしかない場合、異なった学習分野、異なった難易度の学習単位がランダムに出題されることになり学習負荷が高まるためである。

デッキオプションの設定


「単語帳オプション」、「オプショングループ」などデバイスやマニュアルによって呼称が異なる可能性があるが、デッキに定義できる設定群を意味する。
こちらも初期値のままで問題ないが、学習をすすめるにつれて設定を変更しても良い。特に、「新規カード」の「一日の新規カードの上限」は状況に応じて見直されたい。

個人的な体験によれば、学習初期は気分が良いためどんどん学習したくなるが、翌日以降の学習負荷が想定以上に高まり、一日のノルマをこなせなくなるおそれがある。Ankiを用いた学習習慣が定着するまでは上限値を上げないか、むしろ下げたほうがよいかもしれない。

 


間隔反復システムの運用

学習単位の登録

デッキに問題と解答の組を登録する。この組のことをアプリケーション内では「カード」と表現されているが、便宜的に本稿では「学習単位」と呼称する。
学習単位の登録は、一組づつ登録する方法と上述したようにCSVファイルをインポートする方法がある。

中小企業診断士の学習においても、たとえば『中小企業診断士1次試験 一発合格まとめシート』の特典として経営情報システムと中小企業経営・政策について暗記カード用データが取得できる。

また、各科目でデータを有料で販売する個人もおり、Excelなどで適宜加工した上でCSVファイルを作成し、インポート可能である。
なお、ファイルの文字コードはUTF-8になるため、Excelで保存時の「ファイルの種類」は「CSV UTV-8(コンマ区切り)(*.csv)」を選択すること。

個人的な体験によれば、他者が作成した学習単位は暗記しづらいことが多い。場合によっては情報が陳腐化している場合もある。定着が悪いと感じる場合や違和感をおぼえる場合は、購入したものに固執せず、自身で一つ一つ登録したほうがよい。

 

学習

学習画面で問題が出題されたあと、解答を想起し、解答を確認する。
定着度合いにより4段階の判断が可能であるが、想起できたか否かの二択による判断で問題ないだろう。
想起できなかった学習単位は、直後に出題される。
想起できた学習単位は、翌日、3日後、一週間後、のような要領で出題間隔が次第に伸長していく。

学習するデバイスとしては、PC版アプリが一番学習しやすいと感じるが、持ち運ぶことに難がある。
様々な状況においてスマートフォンアプリで学習を進め、定期的に同期する運用が現実的と思う。

個人的な経験によれば、暗記するタイミングとして寝る前、想起するタイミングとして起床直後がよいと指摘されることがあるが、必要な想起回数を前提とすると、誤差の範囲ではないかと思う。あらゆるタイミングで繰り返し想起することがより重要であろう。そのためにもスマホ版アプリでの学習が求められる。


やや細かいが、スマフォアプリにおいては、解答結果選択を画面へのジェスチャーに割り当てることができる。
私の場合は、「右にスワイプ」を「推奨される解答(緑色)」、「左にスワイプ」を「回答ボタン1」としている。覚えていれば右へ、覚えていなければ左へスワイプする運用である。
利き手などの関係もあるため、各自カスタマイズされたい。

学習状況の測定と分析


「統計」機能により、デッキ単位で各種学習状況のグラフが表示される。
過去の学習履歴を可視化されておりそれを確認することで学習継続モチベーションの維持に貢献するため、定期的に当機能を使用するとよい。
また、「予測」エリアでは今後の出題数が表示される。出題数が爆発して対応不能になる危険性がないかを確認すると、上述した一日あたりの新規出題数の変更の際に役立つ。

図:筆者の直近の学習履歴。GWは我慢Weekの略である……




バックアップ

物理的な障害に備えたバックアップ機能はあるようだが、上述したとおり、複数デバイスでの学習時などで、特にiOS版のアプリにおいて同期の順序を間違えると、現在学習のデッキや学習単位が古いそれらで上書きされてしまう論理的な障害が発生しうる。エクスポート機能で学習内容をファイルに書き出せるため気になる方は定期的に書き出すと良いだろう。

ちょっとしたTips

学習単位の類型

学習単位の作成の仕方により、想起の難易度が異なる。学習状況に応じた類型を採用することが望ましい。
たとえば、「Aとは?→Bである。Cと異なり、DがEである」のように、学習概念を問題、その属性を解答とする学習単位は非常に想起の負荷が高いため、学習初期には推奨されないと思われる。
「Bの一種でありDがEのものは?→A」といったように属性を問題とし学習概念を解答とする学習単位(クイズの出題形式)のほうが負荷が低いため学習最初期には望ましい(固有名詞を暗記することのハードルの高さを感じる方もいるかも知れないが、中小企業診断士一次試験のような択一式試験においては、学習概念を一言一句暗記する必要はないため、厳密に想起する必要性はないだろう)。
折衷案として、問題部に「Aとは【】の一種であり、Cと異なり、Dが【】である」、解答部に「Aとは【B】の一種であり、Cと異なり、Dが【E】である」とするような穴埋め方法もある。

上記、色々と書いたが、パターンによって想起の負荷が異なる点をまずは留意されたい。

難易度を考慮したデッキ運用

上記に関連して、想起の難易度が異なる学習単位が混在するデッキは、学習が進めづらい点を指摘したい。
一秒かからず想起ができるクイズ形式の出題単位と、想起に数秒必要な学習単位(たとえば複数概念とその属性値を表形式でまとめた問題)がランダムに出題されると解答のリズムが狂う。
たとえば難易度別にデッキを作成するなどの工夫が必要となるだろう。

なお、デッキには下位のデッキが作成可能である(デッキ名に::とコロンを2つで区切る)。上位のデッキを学習分野に、下位を章構成としたり類型別か難易度別にするなどのカスタマイズが可能である。

「leech」タグの管理

前々回の記事で「理解可能な入力」原理という概念で説明したように、理解不可能な概念は、まずは理解を断念したほうが全体として効率的に学習が進む。
Ankiでは、一定回数想起に失敗した学習単位は自動的にleech(学習しても無駄という含意)というタグが付与され、以後の出題からスキップされる。

ボキャビルについて見た場合、leechはleechのままでよいと思われる。一個あたりの学習単位の重要性が相対的に低いからである。
暗記できない単語に拘泥するよりも暗記できる単語を増やしたほうが良い。
一方で、中小企業診断士試験のような資格試験についてが、一個あたりの学習単位の重要性が高いため、暗記ができないまま放置するのは推奨されないだろう。

逆に言うと、理解不可能な学習単位のリストが自動的に作成される機能と捉え、まとまった時間がとれる機会に集中的に学習し直したり、試験直前期に一気呵成に丸暗記する、等の対策を施そう。

別の学習単位が理解を阻害している場合


それまで正解できていた問題が正解できなくなることがある。単純に数字を忘却したことが原因ではなく、当該学習単位以外の学習単位によって理解が阻害されている場合がある。
その際には「ブラウザ」機能で他の学習単位を検索しよう。
同じキーワードを共有する似た学習単位が検索される場合が、それが混乱をもたらしている可能性がある。
それらの相違点を確認すること、そしてその相違点を問う学習単位を登録することが推奨される。

試験直前期の復習

試験直前期は、上述したブラウザ機能でデッキ単位で学習単位を総復習してもよい。また、「カスタム学習」機能を使うと、復習日到来前の学習単位を復習できる。重要な学習単位などは別途タグを付与しておき、「特定のタグで選ぶ」で復習してもよいだろう。中小企業診断士受験業界では、「ファイナルペーパー」なる概念で直前期に復習する学習内容をまとめておく慣習があるが、その代替にもなると思われる。


今年のゴールデンウィークは実家への帰省もできず、自宅で子供と過ごす日々となりました。
上の娘は家でのかくれんぼが大好きで、部屋の様々な隙間に挟まったり戸棚の中に隠れたりする時間を過ごしています。
それでも片手にはスマートフォンを持ち、Ankiによる学習を進めています。

明日は関西エリアのインフラを支えるアラフィフ・ジェントルマン・こーしが担当です。お楽しみに。

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